〈聖書からのお話し〉
 
「主よ、祈りを教えてください」

牧師 屼ノ下照光 
 
 イエスがあるところで祈っておられた。祈りが終わると、弟子の一人がイエスに、「主よ、ヨハネが弟子たちに教えたように、わたしたちにも祈りを教えてください」と言った。そこで、イエスは言われた。「祈るときには、こう言いなさい‥‥」
                 (ルカによる福音書 11章1~4節)

 今月から、ホームページのこの欄では、イエス・キリストが教えてくださった祈り、「主の祈り」を取り上げたいと思います。「主の祈り」は、主イエスご自身が教えてくださった大切な祈りであり、私たちはこの祈りから、「祈りとは何か?」を学ぶことができます。そして、この祈りを、私たちが、私の祈り、私たちの祈りとして祈るとき、確かに大きな恵みと祝福に包まれていることを経験するのです。弟子たちが主イエスに、「わたしたちにも祈りを教えてください」と頼んだとき、主イエスは、この「祈り」を教えてくださいました。「主の祈り」は、マタイによる福音書6章9~13節にもあります。
 私の好きなドイツの神学者、ヘルムート・ティーリケに、『主の祈り』という本があります。これは、「主の祈り」についての説教集です。この説教は、1945年、第二次大戦ヨーロッパ戦線の終わりから敗戦直後にドイツのシュトットガルトでなされた説教です。連合軍の空襲におびえながら、人々は礼拝に集い、彼の語る説教に耳を傾けました。最後の説教がなされたときには、シュトットガルトには礼拝をまもる教会はすべて破壊されていたと、ティーリケは語っています。人々は爆撃で破壊された瓦礫の中で礼拝をまもりました。この説教は、まさに人が生きるか死ぬかというぎりぎりのところで語られたものであり、聞かれたものです。私は「主の祈り」についての本でこれ以上のものを知りません。説教集のもともとのタイトルは、『世界を包む祈り』です。著者は次のように語っています。
 
 「説教者は、その聴衆の顔に彼らをとりまく過酷な運命が刻みつけられているのを見た。(中略) 彼らの顔には絶望の苦悩がありありと浮かび、慰めを求める飢えと渇きが刻みつけられていた。しかもそれは、激しい労働、しばしばのがれる地下の防空壕、肉体も精神もさいなむ間断なき苦痛の連続によって、いつまでも消されないままであった。
 わたしがこの人々の顔の中に読みとったもの、また自分自身も同じ状況にある者として同様に顔に出ていたあの絶望的な苦悩、飢えと渇きは、この説教の中にも現れていることであろう。しかし『主の祈り』はすべてこれらのものをつつみ得たのであった。もし真に『主の祈り』が祈られるならば、きっとそれらは密かに変えられてゆくことを疑わなかった。
『主の祈り』は、ほんとうに世界をつつむ祈りである。日常的な瑣事の世界と『世界史的展望』をもった世界、幸福な時と底知れぬ苦悩の時、市民の世界と兵士の世界、何事もない日常と恐るべき異例の破局、悩みを知らない子どもの世界と、しかし大人をも打ち砕く問題に満ちた世界とをつつむ祈りである。
 全世界は、主のみ手の中に安ろうている。そしてまた全世界はわれわれが祈りのためにあげる手のうちに安ろうている。
 まさに、祈りから、この世界をもう一度新しくみることを学ぶにまさって大いなることがあり得るであろうか」。

 私たちが礼拝ごとに祈る「主の祈り」が、今日のどこに向かっているのか分からないような不安をいだかせる世界を包みこむ祈りであり、何かいい知れないような不安や恐れをいだいている私たちを温かく包みこんでくれる祈りであるとティーリケは語っています。それはなんと恵みに満ちたことでしょうか。そのことをおぼえながら、主イエスが教えてくださったこの祈りを共に祈り続けていきたいと思います。
 
 以下に、教会で用いられている「主の祈り」を紹介します。

 天にいます、われらの父よ
 み名があがめられますように
 み国が来ますように
 みこころが、天で行われるとおり、地にも行われますように
 私たちの日毎の食物を、今日も、お与えください
 私たちに負債のある者を赦しましたように
 私たちの負債をも、お赦しください
 私たちを試みにあわせないで、悪しき者からお救いください
 み国も、力も、栄光も、とこしえに
 あなたのものだからです   アーメン
           (松阪ルーテル教会で用いている「主の祈り」)

  天におられるわたしたちの父よ
  み名が聖とされますように
  み国が来ますように
  み心が天に行なわれるとおり、地にも行なわれますように
  私たちの日ごとの糧を今日もお与えください。
  わたしたちの罪をお赦しください
  わたしたちも人を赦します
  わたしたちを誘惑におちいらせず
  悪からお救いください
  国と力と栄光は、永遠にあなたのものです  アーメン
      (日本聖公会、カトリック教会で用いている「主の祈り」)


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